角川歳時記のあゆみ ● 三島ゆかり
というわけで、角川の俳句歳時記が初版から第四版まで手許に揃ってしまった。馬鹿である。適当に見てみよう。
髪洗ふ かみあらふ 洗ひ髪
【初版】
夏は婦人は汗と埃で、頭髪から不快な臭氣を發するので、たびたび洗はなければならない。
山川にひとり髪洗ふ神ぞ知る 高濱虚子
洗ひ髪夜空のごとく美しや 上野 泰
洗髪月に乾きしうなじかな 中村汀女
洗ひ髪かわく夕雲金色に 柴田白葉女
洗ひ髪いまだ濡れゐる疲れかな 野澤節子
洗ひ髪他に欲なくなりにけり 小坂順子
【新版】
夏は婦人は汗と埃で、頭髪から不快な臭気を発するので、たびたび洗わなければならない。
山川にひとり髪洗ふ神ぞ知る 高浜虚子
うつむくは堪へる姿ぞ髪洗ふ 橋本多佳子
泣きくづるごとくに髪を洗ふなり 石原八束
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ 野澤節子
ゆたかなる肉出しきつて髪洗ふ 天野莫秋子
洗ひ髪かわく間もなく結はせけり 下田実花
ねんごろに恋のいのちの髪洗ふ 上村占魚
洗ひ髪恋や未練の紅刷いて 小坂順子
【第三版】
夏は汗と埃で頭髪が汚れ、不快な臭気を発するので、たびたび洗うことになる。女性が髪を洗った後、解き下げたままにした髪、または洗った髪そのものを「洗い髪」という。
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ 野澤節子
いとほしむほどの丈なき髪洗ふ 檜 紀代
関所越ゆ洗ひざらしの髪束ね 川島千枝
鯛曼陀羅の海をはるかに髪洗ふ 小枝秀穂女
【第四版】
髪を洗ったあとの心地よさは夏は格別である。洗ったあと乾くまでの髪を「洗い髪」という。
髪洗ひたる日の妻のよそ/\し 高野素十
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ 野澤節子
髪洗うまでの優柔不断かな 宇多喜代子
ぬばたまの夜やひと触れし髪洗ふ 坂本宮尾
洗ひ髪身におぼえなき光ばかり 八田木枯
洗ひ髪素顔でゐてもよき夕べ 嶋田摩耶子
すぐ乾くことのさびしき洗ひ髪 八染藍子
落日のあたりに船や洗髪 中西夕紀
ちなみに初版はちゃんと編者の名を明らかにしている。秋元不死男、原田種芽、志摩芳次郎の三氏である。
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