2008年7月3日木曜日

角川歳時記のあゆみ

角川歳時記のあゆみ ● 三島ゆかり



というわけで、角川の俳句歳時記が初版から第四版まで手許に揃ってしまった。馬鹿である。適当に見てみよう。


髪洗ふ かみあらふ 洗ひ髪

【初版】
夏は婦人は汗と埃で、頭髪から不快な臭氣を發するので、たびたび洗はなければならない。

山川にひとり髪洗ふ神ぞ知る    高濱虚子
洗ひ髪夜空のごとく美しや     上野 泰
洗髪月に乾きしうなじかな     中村汀女
洗ひ髪かわく夕雲金色に     柴田白葉女
洗ひ髪いまだ濡れゐる疲れかな   野澤節子
洗ひ髪他に欲なくなりにけり    小坂順子

【新版】
夏は婦人は汗と埃で、頭髪から不快な臭気を発するので、たびたび洗わなければならない。

山川にひとり髪洗ふ神ぞ知る    高浜虚子
うつむくは堪へる姿ぞ髪洗ふ   橋本多佳子
泣きくづるごとくに髪を洗ふなり  石原八束
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ  野澤節子
ゆたかなる肉出しきつて髪洗ふ  天野莫秋子
洗ひ髪かわく間もなく結はせけり  下田実花
ねんごろに恋のいのちの髪洗ふ   上村占魚
洗ひ髪恋や未練の紅刷いて     小坂順子

【第三版】
夏は汗と埃で頭髪が汚れ、不快な臭気を発するので、たびたび洗うことになる。女性が髪を洗った後、解き下げたままにした髪、または洗った髪そのものを「洗い髪」という。

せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ  野澤節子
いとほしむほどの丈なき髪洗ふ   檜 紀代
関所越ゆ洗ひざらしの髪束ね    川島千枝
鯛曼陀羅の海をはるかに髪洗ふ  小枝秀穂女

【第四版】
髪を洗ったあとの心地よさは夏は格別である。洗ったあと乾くまでの髪を「洗い髪」という。

髪洗ひたる日の妻のよそ/\し   高野素十
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ  野澤節子
髪洗うまでの優柔不断かな    宇多喜代子
ぬばたまの夜やひと触れし髪洗ふ  坂本宮尾
洗ひ髪身におぼえなき光ばかり   八田木枯
洗ひ髪素顔でゐてもよき夕べ   嶋田摩耶子
すぐ乾くことのさびしき洗ひ髪   八染藍子
落日のあたりに船や洗髪      中西夕紀


ちなみに初版はちゃんと編者の名を明らかにしている。秋元不死男、原田種芽、志摩芳次郎の三氏である。




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