〔中嶋憲武まつり・第23日〕
DOKUTSUBO~読書のツボ
真剣師 小池重明
中嶋憲武
『真剣師 小池重明』団鬼六著(幻冬舎アウトロー文庫)。
ひとは、桁外れに強いもの、ずば抜けた才能などに、特に強く惹かれるようである。
ひさびさに面白いものを読んだ。2日で読了。
1989年に団氏は断筆宣言をし、この作品によって1995年に復活した、いわば記念碑的な一作だ。団氏のものは、「花と蛇」「鬼の花宴」「お柳情炎」など悪魔的な小説のイメージが強く敬遠する人はするだろうけれど、この作品や、「蛇のみちは」(団氏の自伝)、「外道の群れ(責め絵師伊藤晴雨伝)」「最後の浅右衛門」など自伝や歴史上の人物に焦点を当てたものなど、時間を忘れて読んでしまうくらい面白い。最近出た「我、老いてなお快楽を求めん」というエッセイ集は痛快無比な面白さで、電車のなかで読んでいて思わず声を出して笑ってしまった。
さて、この作品であるが、「真剣」とは賭け将棋のことで、「真剣師」とは、賭け将棋で渡世するギャンブラーの謂である。
父は偽の傷痍軍人を業とし(業というのか?)、母は娼婦という家庭に生まれた。将棋は高校のころに目覚め、その面白さに憑かれ学校の勉強そっちのけで猛勉強。「将棋で生計を立てたい」という一心で高校中退。上野の将棋センターに住み込みの従業員として働きながら、将棋の腕を磨く。と、こう書いていくと青雲の志を立てて、上昇していく立志伝のようであるが、そうは行かないのが小池重明という孤高の天才棋士の生涯。
あまりに強かったがゆえの悲劇か喜劇か。将棋以外は何も出来なかったという文字通りの天才。生活の軌道が乗っていったかと思うと、必ず女性や借金の問題で挫折を繰り返す破滅型性格。プロを目指すも、プロにはなれず、常に退廃的な自堕落な生活を選んでしまう性癖の持ち主。自分にそういう傾向があるせいか、このような人物は、ぼくにとっては大変魅力的である。
一睡もせずに対局に臨み、対局中に居眠りしながらも勝ってしまったり、スナックで酔って暴行事件を起こし、留置場でひと晩眠り、翌朝留置場から会場へ向かい、大山康晴名人と対局するも短時間で勝利してしまったり、真剣師として彼に勝てる者はなく、「新宿の殺し屋」と異名を取ったり、世話になった恩人の金庫から金を持ち逃げして女性と駆け落ちしてしまったり、とにかくエピソードには事欠かない一生である。多くの人に愛され、多くの人に憎まれた男の一生に、惜しみない賛辞を送りたい。
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