2009年6月12日金曜日

●シネマのへそ10 ハゲタカ 村田篠

シネマのへそ10
『ハゲタカ』 
(2009年 大友啓史監督)

村田 篠


テレビサイズでドラマを観ているときは特に思わなかったのだけれど、映画になってみると、これが「NHKドラマ」であることがしみじみと身にしみる。聞けば、NHKのドラマが映画化されるのは、はじめてなのだそうだ。

なにしろ、人間の描き方がドラマティックなのである。そういえば、映画の中に「日本人は情緒的な民族だ」という中国人のセリフが出てくる。日本人を十把一絡げで評する気は私にはないけれど、少なくとも、このドラマの作りは多分に「情緒的」である。

もしかしたら、「お金」についての物語だからよけいにそうなるのかもしれない。「金儲け」というものに対する心理的反作用がどこかで働いて、それに関わる人々の造型に「この人がこうなったのには、深いワケがあるのだ」という理由を(過去を)つくってしまう。それは非常に昔ながらの「ドラマ作り」の骨法かもしれないけれど、映画サイズになると、どうしてだか過剰なものに映ってしまう。スクリーンの不思議である。

逆に、説明シーンが足りなくて、状況がよく分からないくだりもあった。テレビの連ドラとして観ているとなんとなく分かるのだけれど、2時間尺の映画では、それではキビシイ。


それにしても、せっかくリーマン・ブラザーズの崩壊や派遣雇用問題を意識して盛り込んでいながら、随所でプロットの甘さが感じられたのは残念だ。例えば【以下ネタバレ:白字・マウスでドラッグ】、これだけ互いに情報戦にしのぎを削っているにもかかわらず、主人公・鷲津側が、土壇場で敵役・劉側に打って出る動きを、劉一派はどうして読めないのか、そんなにお間抜けでいいのか、【以上ネタバレ】と感じたのは、私だけだろうか。こういう、日常からかけ離れた話はただでさえ嘘っぽいのだから、きちんと構成されていないとほんとうに嘘っぽくなる。ただもし、これほど「情緒的」でなければ、もしかしたら「経済ファンタジー・ドラマ」として面白くなったのかもしれないけれど。

とはいえ、主人公がタメをつくって決めゼリフを言うようなドラマ、決して嫌いではない。

柴田恭兵「これから、君はどうするんだ」
大森南朋「……見にいくさ、資本主義の焼け野原を」

なんていうラスト近くのやりとりは、私にはひたすら面白かった。

それから、玉山鉄二演じる中国人・劉一華の「出自が貧しく、野心家で、美しい」という造型は、昭和24年組(大島弓子、萩尾望都、山岸凉子)登場以前の少女マンガにおける「ヒール」の典型であって、いやもう、個人的に大いに楽しんでしまったのでありました。


ドラマティック度 ★★★★★
敵役イケメン度 ★★★★★


「ハゲタカ」オフィシャルサイト ≫こちら

4 件のコメント:

  1. >「見にいくさ、資本主義の焼け野原を」

    爆笑。

    (映画館ではどうだったのでしょうか。笑いが起こる流れではないのでしょうが)

    誰か私に「これからどうする?」って訊いてくれないかなあ。

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  2. 昭和55年に、NHKで和田勉が作った「ザ・商社」というドラマがあり、この山崎勉がかっこ良かった。夏目雅子が裸になるのに無視しちゃうんだから(勿体無い)。

    天気さんに訊きました。
    「これからどうするどうする甘納豆?」

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  3. >天気さん
    今度会ったとき、スキを見てお訊きしますので、宜しくお願いします。
    『ハゲタカ』は、決め台詞があちこちにちりばめられているので、笑っているヒマがありませんでした。

    >猫髭さん
    『ザ・商社』覚えています。あのドラマ、好きでした。
    NHKのドラマは、もともとわりに好きなんです。
    ドラマ版『ハゲタカ』も好きで、6話全部見たのでした。

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  4. 猫髭さん。またむずかしいことを…。

    「見にいくさ資本主義のうふふふふ」

    すべった(汗。

    篠さん。なるほど、あちこち、ですか。
    セリフの「タメ」をなくすだけで10分短くできる映画がありますね。

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