〔暮らしの歳時記〕
きのこ
さいばら天気
去年の12月に死んだ山本勝之が、あるとき、東京近郊の山の中で、きのこを買った。
吟行の途中、掘っ建て小屋があって、ヒッピーの生き残り、というか、「ずっとヒッピーやってます」てな感じだから、年の頃なら還暦ほどのオッサンが数人、昼間から暇そうに軒下に坐り、烏骨鶏の卵やら山草を棚に並べて売っていた。山本勝之が目を付けたのは、そうした商品ではなくて、そのへんに捨て置かれたきのこだった。
「それ、ダメだよ」とオッサン。
けれども、未練が残ったらしい。山本勝之は「どうしても」と頼み込み、手に入れた。ヒッピーが摘んできたのだから「魔法のきのこ」だと踏んだのだろう。たいせつに持って帰った。
後日、「あれ、どうだった?」と訊いてみると、激しい腹痛に襲われ、トイレに駆け込むと、真っ黒な便が出たという。
ふつうに、毒きのこでしょ? それ。
「エラい目に遭うたわ」
山本勝之は笑いながら答えたが、その笑顔は、苦痛に歪んでいるようにも見えた。その夜がよみがえったのか、笑うとき、苦しいとき、どちらも同じような顔になるのか、そのへんは不明。
ああ、しかし、勇敢にも喰ったのだ。彼は。素性の知れぬきのこを。
どこまでむちゃくちゃなんだ? と大いに感心したものだ。
これはいい茸だしかも二つある 鴇田智哉
三つほど悪い茸が出てゐたる 〃
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