Leave my kitten alone
中嶋憲武
俺俺今度あいつに言っとくよと、ジューはそこいらへんに唾を吐きながら言った。わたしはなにも答えなかった。ジューのうしろに広がっている真夜中の闇の空。その遠くの空がすこしだけ紫がかっているのを、きれいだと思っていたし。ジューはいつでも威勢のいいところをみせようとしていたけれど、わたしはそんな事どうでもよかった。その時その時が楽しければよかったのだ。
ジューはひとつ年長で、中学を出ると春からタイル屋の見習いになった。わたしも来年卒業だ。美容学校へ進もうと思ってる。
ジューの職場の先輩のノビは、わたしになにかとちょっかいを出す。坊主頭のノビは大きな頭をぐりぐりと振りながら、わたしを誘う。ノビのバイクには、ちょっと乗ってみたい気もする。
「トーコ、ロマン座行くか、今夜」
「嫌いだよう、映画」
そんな時、ジューはいつの間にか傍へ来ていて話に割って入ってくる。猫のような奴だ。ジューとは小さい頃から一緒だったから、今さら好きとか嫌いとかおかしい気がする。好き?そんな事考えた事もなかった。ジューはどうなのだろう。このごろわたしの気まぐれが余りに過ぎるので、鬱陶しいと思ってるだろう。それにしてもさっきはどうして「好き」なんて言葉が浮かびあがってきたのか。ジューとわたしに限って、そんな事がある筈がない。断じてない。なんだか眠くなってきちゃった。お風呂入って寝よ。そうだ家庭科の宿題やってなかった。あの三十過ぎの先生は苦手だ。早く結婚してやめちゃえばいいのに。と考えてるうちに眠った。
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