2010年4月20日火曜日

●コモエスタ三鬼15 ことばのスピード

コモエスタ三鬼 Como estas? Sanki
第15回
ことばのスピード

さいばら天気


三鬼には、句作を開始して数年間ですでに代表作と呼ばれる句が何句もある。

算術の少年しのび泣けり夏  三鬼(1936年)

三鬼自身は、自分の息子が夏休みの宿題の算数ができずに泣いている、それを詠んだだけのこの句に、意外な評判が集まることを、末尾の2音で切れるかたちがめずらしかったのだろうと、ちょっと醒めた目で振り返っている〔*〕

たしかに切れの位置はユニーク。けれども、「算術の少年」のフレーズは、音数制限のある俳句だからこそといえる。凝縮というのではない。事情がうまく伝わるわけではないから。舌足らずの感もある。

俳句は、しばしば、叙述を急がせる。もたもたしている暇はない。その結果生まれるものを「スピード感」と呼んでもいいだろう。

なにかたいそうなことが込められる必要はない。うまく描写する必要も必ずしもない。そこに生まれることばのスピード、叙述のスピード、「一閃」とでもいうべき速度の感触。それは確実に俳句のひとつの、まずは初次的な、そしておそらく最重要の愉楽だと思う。

(付け加えるに、吾子俳句に見えないのは「算術の少年」という言い方のせいでしょう)


〔*〕
三鬼の自解による(『俳句』1980年4月臨時 増刊「西東三鬼読本」ほか)

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