カレン忌 中嶋憲武
過日はあたたかな立春を迎えた。
2月4日立春大吉。この日はあまり人口に膾炙されていないけれど、カレン・カーペンターの命日でもある。
ときおり、大きな声で「ジョ~ン(犬じゃなくビートルズのね)、どおして死んじまったんだよお~」と叫びたくなる瞬間が人間であれば誰しも人生の中で少なからずあるけれど、カレンもまたかく叫びたい不意の心境に駆られるアーティストのひとりである。
カーペンターズの記憶はぼくのなかでは十代の記憶ででもある。最初に意識したのは中学1年のときだったか。デビューは1969年であるから4年も認識が遅れているのであるが。イエスタデイ・ワンス・モアとかシングとかトップ・オブ・ザ・ワールドとかその辺の楽曲が記憶の底辺にある。トップ・オブ・ザ・ワールドは1972年発売のアルバム「ア・ソング・フォー・ユー」に収録されているから、1973年当時は新曲であり、ラジオなどでよく流れていたのだろう。今は無き旺文社の雑誌「中一時代」のグラビアに、二人のライブの時だろうと思われる写真に歌詞が印刷されていた記憶もかなりぼやけてはいるが、ある。
幼稚園時代同じ組でいまも年賀状をやりとりしている女性と、中学生のころ文通というか書簡のやりとりをしていて、クラブ活動とか受験で大変な毎日だがカーペンターズを聴いていると救われるというような事どもが書かれてあった。その手紙がきっかけとなって、初めて買ったアルバムがファーストの「涙の乗車券」であった。長い間聴いていなかったのでずっと1曲目は「ワンダフル・パレード」というマーチの行進曲から始まる曲であり、この手法はクイーンの「シアー・ハート・アタック」の1曲目のロック史上傑作の誉れ高い「ブライトン・ロック」と一緒だなと思っていたのだが、最近コンパクトディスクを聴いてみるに、1曲目は「祈り」というオーヴァーダビングを駆使した短い曲だった。改めて聴いてみると、じわじわといい。一枚目にして完成度の高さが実感させられる。それはひとえにリチャードの音作りのアイデアとカレンの声の魅力なのかもしれない。歌手は声である。「涙の乗車券」はレノン・マッカートニーの曲だが、まるで別物のように聞こえる。中2か中3のときに買ったシングル「プリーズ・ミスター・ポストマン」の裏ジャケットの解説を湯川れい子が書いていて、「そういえば、カーペンターズの出発点はあの「涙の乗車券」であったと気づき、あとは涙ハラハラ」という一節があった。このシングル盤はたび重なる引越によってどこかに散逸してしまったけれど、確かにそんな一節があった。この曲もジョンの重く引きずるようなイメージの歌唱と違って、春うららのような温かさと程よい軽みがある。そういえばファーストアルバムでニール・ヤングの曲もやっていたけれど、しばらく聴いていても誰の曲なのかまったく分からなかった。すべてカーペンターズ流にしてしまう錬金術がある。この個性はどこから来たか。すべて才能とセンスのなせる技なのか。音楽体験からだろうか。
カレンの声は心を捉えて離れず、生き続ける永遠に。
立春やまたカレン・カーペンター忌
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