相子智恵
遺品みな雪の樹間のごとくかな 川口真理
『静かな場所』第6号(2011年5月15日発行)「雪の樹間」より。
一面を圧倒的に覆い尽くす平原の雪ではなく、林中の雪。さっと日が差して輝いた雪の上には、木々の影が落ちている。時々は、木の枝からどさりと雪が落ちて、粉雪が舞い上がる。樹間の雪には、平原の雪よりも豊かな表情がある。それでいて誰も立ち入ることのない静けさと安らかさがある。遺品の喩えとして、この上なく美しい。
私は以前から飯田龍太の「雪の日暮れはいくたびも読む文のごとし」を愛唱しているのだけれど、川口氏の句にも同様の懐かしさがある。それはきっと、一面ただ真っ白な雪では生まれない懐かしさなのだ。川口氏の句は木の影が、龍太の句は日暮れが、雪の白さをただの白にしてしまわない慎みが、懐かしさを生んでいるのではないか。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿