樋口由紀子
金魚鉢かきまはしたい気にもなり浅井五葉 (あさい・ごよう) 1882~1932
浅井五葉は「川柳は写生」と提唱した人である。しかし、俳句の写生句とは肌触りが違う。金魚鉢を見ての写生句なのだろうが、金魚鉢のありさまは詠んだモノでも、金魚鉢の客観的事実を書いたモノでもない。金魚鉢を見ているとかきまわしたくなったコトを書いている。
「触らないでください」という張り紙をよく目にする。触ってはいけないとわかっていてもつい触ってしまう人がいるからだろう。
金魚は涼しそうに泳いでいる。こう暑いと水の中に手を入れたくなる。ひやっとして気持ちいいだろう。ついでにかきまわして金魚はびっくりさせたくなる。人間の遊び心を軽く突いている。原発も節電も関係のない、古き良き日本ののんびりとした夏。五葉は日本最大の結社「番傘」の創立同人。「番傘」(1915年刊)収録。
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