樋口由紀子
今宵あたり13ベクレルの月夜かな渡辺隆夫 (わたなべ・たかお) 1937~
ベクレル・セシウム・シーベルト・メルトダウンなど聞きなれない言葉が原発事故以来よく目にするようになった。「ベクレル」は放射能の量を表わす単位であり、ずっと縁がなくて過ごしたかったのにそうはいかなかった。不安と心配でそれらのカタカナ語に接しているのに、隆夫は気持ちを逆なでするように「13ベクレルの月夜かな」と風雅風に詠む。「十三夜」とひっかけているのだろうか。
月夜などはもともと身体的感覚で味わうべきものである。しかし、現在はこの身体的感覚が軽んじられている傾向がある。なにもかも数値によって価値判断して、納得する味気ない世の中に対しての皮肉も併せて感じる。「バックストローク」(第35号 2011年7月)収録。
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