相子智恵渡り鳥鏡を抜けて来しもあらむ 四ッ谷 龍
「むしめがね」第19号(2011年8月)「こだま」より。
台風ごとに空は高くなる。高い空の北の彼方から、渡り鳥たちが今年もやってくる。
はるか上空を渡る鳥たちがまとっている空気は、キラキラと、凛と、冷たい空気だろうか。秋の大気に、鏡のような輝きと冷たさが思われた。
……いや、そうではない。
本当に渡り鳥のいくつかは〈鏡を抜けて〉来たのだ。比喩的な連想は働きつつも、やはり鳥は〈鏡を抜け〉たのだ。この句にはそんな美しい説得力がある。
〈鏡を抜けて〉という詩的な羽ばたきと、鳥が渡る秋空の実感。その二つのイメージが高いところで融合され、美しい一句に結晶している。
6年ぶりに発刊されたという「むしめがね」は読みどころが多い。なかでもフランスの作家ティエリー・カルザスによる冬野虹論「ぶらんこの上の虹」は美しい音楽のように、静かなフィルムのように、芯をふるわせる。
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ありがとうございます。
返信削除ティエリー・カザルスの文章を読んでいただいたことがとりわけ嬉しく。
「ぶらんこの上の虹」はたいへん好評です。