相子智恵おしやべりな臓器ここにも小鳥来る 嵯峨根鈴子
句集『ファウルボール』(2011.7/らんの会)より。
〈臓器〉の一語が異質である。
〈おしやべりな〉と〈小鳥来る〉という季語には絵本的なかわいらしさ・明るさがあるが、そこに埋め込まれた〈臓器〉という語のグロテスクさにドキリとしてしまう。
だがその気持ち悪さを目の前にして、じぃっとこの句に立ち止まってみると、なんだかふつふつと面白さが湧いてくる。
たとえば、人間の心臓や肺や胃が〈おしやべり〉だと想像してみる。
心臓はくぐもった低めの声、肺はすーすーと抜ける声、胃の声音は意外と甲高そうだ。私たちの臓器は働き続け、たしかに音を立てているのだから、意外と想像に難くないな、と思った。
そんなおしゃべりな臓器の自分の前に、にぎやかな鳴き声のたくさんの小鳥たちが遠方から渡ってくる。にぎやかな小鳥の喋りに応じて、臓器がそれぞれ喋りだしたなら。
それはそれで奇妙な絵本のようで、妙に牧歌的な気持ちになるのだった。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿