2011年12月9日金曜日

●金曜日の川柳 樋口由紀子


樋口由紀子
  







院長があかんいうてる独逸語で


須崎豆秋 (すざき・とうしゅう) 1892年~1961年

病院のトップが「あかん」と言っているのだから、それはたいへんなことである。他の医者に独逸語で告げたのだろうか。それともカルテにそう書いたのだろうか。「あかんいうてる」の大阪弁がいい響きをしている。「あかん」は「あかん」に変わりはないのだが、事態の深刻さを緩めて、むしろ大らかでユーモアを引き出している。これが川柳味というのだろう。

先日、体調を崩して久しぶりに病院に行った。今のカルテは日本語のパソコン入力だった。医者の威厳はわからない独逸語でスラスラとペンを走らせている方だなと変換に手間取っている医者の指と日本語の画面を見て思った。

〈葬式で会いボロいことおまへんか〉〈恋人の坐ったとこへ坐って見〉〈児が追えば鳩は歩いて逃げるなり〉などのおもしろい句を残して、豆秋は直腸癌の手術後に亡くなっている。

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