相子智恵いやですと云ふ練習をマスクの内 関根誠子
句集『浮力』(2011.4/文學の森)より。
この作中人物はきっと、かなりいい人だ。
ふだんはなかなかNOと言えず、それでも一大決心で「いやです」と言おうとして、ぶつぶつとマスクの内側で練習している。これからNOを言う相手に、会いに行くのだろうか。
マスクの内側だから、他人からその口は見えない。自分の気持ちとNOを言う相手への思いやりの間で、練習をしながらも、きっとまだ「いやです」と言おうか言うまいか揺れているのではないだろうか。
そんな推理が働くのは、誰からも見えない〈マスクの内側〉という設定に、すれ違う見知らぬ他者にまでも無意識的な気遣いをするような人物像が想像されてくるからである。
マスクという小道具がうまく生かされていて、人物像の想像がふくらみ、物語が広がる。人事句の面白さはこういうところにあるように思う。
それにしてもこの人、生きていて肩がこるだろうな。
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