樋口由紀子
大晦日のエスカレータに 乗せられ堀豊次 (ほり・とよじ) 1913~2007
大晦日の買い物客でごったがえすデパートのエスカレータが動き始めたときに、なぜ自分がここに立っているのか、どこに連れていかれるのかと、ふと思ったのだろう。
「乗せられ」だが、もちろん自分で乗ったはずである。それを途中で放り出したような留め方の「乗せられ」にしたことで、一挙に日常が変質し、世界が反転した。
消費するためにデパートに行かされ、エスカレータに詰め込まれ、考えてみれば、人生は「させられ」の連続である。一年も一生も、自分の意志とは関係なく、なにものかに乗せられて、運ばれているのかもしれない。「天馬」(2号 河野春三編集発行 1957年)収録。
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