相子智恵待春や一樹せり出す水の上 松永浮堂
句集『遊水』(2011.5/角川書店)より。
今年は大寒らしい大寒となった。寒いだけに春を待ち遠しく思う気分も強い。
掲句、一本の裸木が水の上に張り出している。池や湖の上に張り出した木なのだろう。
冬の水面はピンと張りつめ、そこに張り出す木にも冷たい緊張感がある。ちょうど中村草田男の〈冬の水一枝の影も欺かず〉を思い出す眺めだ。
ただ草田男の句が〈静〉だとすれば、掲句は、息吹のような〈動〉の力を感じさせる。
もちろんそれは〈待春〉という、芽吹きの春を意識させる季語の働きが大きいのだが、〈せり出す〉という言葉の選び方にもあるだろう。
〈せり出す〉は状態だが、同時に力強い木の意志のようなものを感じさせるのだ。水の上にグッと伸びようとする木の意志、そして樹がせり出した先にたたえられた〈水〉の包容力。
春はもうすぐだ、とうれしくなる「王道の風景句」である。
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