樋口由紀子
旅ひとり仁王の口を真似てみる森中恵美子(もりなか・えみこ)1930~
森中恵美子は一世を風靡した時実新子と人気を二分した川柳人である。新子はうわべの取り澄ましたものの奥にある真実を女性からの鋭い視線で川柳にしたが、恵美子は既成の女性観を受け入れ、そのための葛藤が句に表れている。作品はやさしくて明解だが、どきっとするほどの寂しさがにじむ。
どんな気持ちで仁王の口を真似たのだろうか。仁王の口をした自分を見て、笑って、泣いて、そして笑ったのだろうか。
恵美子は現在番傘川柳本社の副幹事長。〈母はまだひとりでまたぐ水たまり〉〈いい人に逢う踏切の多い町〉。『仁王の口』は平成九年第一回日本現代詩歌文学館長賞を受賞。『仁王の口』(葉文館出版・1996年刊)所収。
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