●月曜日の一句〔喜田進次〕 相子智恵
相子智恵午後になつたらてのひらだらけ山桜 喜田進次
句集『進次』(2012.2/金雀枝舎)より。
意味が取りにくい句ではあるが、心を去らない句である。
山桜の花の白さと、手のひらの白さ。五つの花びらと、五つの指。たくさんの手を振るように、たくさんの桜の花が揺れる……山桜と手のひらは似ているように思えてきて、それが奇妙な味わいを醸し出す。
桜の開花予報が出ているような、うららかな春の日の午後。一斉に咲くのははたして、山桜なのか。それともたくさんの手のひらなのか。白昼夢でも見ているような気分になる。
この句集は俳句はもちろん、頻繁に出てくる短文にも心を掴まれる。一句一句の面白さだけではなく、この句集は「本を読む楽しさ」を与えてくれるのだ。詩集との二冊組である。
『進次』は、遺句集だ。私は喜田進次をこの句集で知った。
この人が、いまや亡き人であることが、それはもう、たいへんに惜しい。
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