樋口由紀子
カサコソと言うなまっすぐ夜になれ佐藤みさ子 (さとう・みさこ) 1943~
はじめてこの句を目にしたときはびっくりした。表現が巧みというのではなく、このような端的な表現があったのだと思った。言葉の選び方も句の仕立て方もいままで見たことのない川柳だった。
誰にあるいは何に向かって言っているのだろうか。たぶん、自分に向かってであろう。「カサコソ」とは落葉を踏むときの擦れた乾いた音。自分の裡にある得体の知れないもの、説明つかないもの、どうすることもできないものがじっとしておれなくて「カサコソ」と音を立ててしまう。「まっすぐ夜になれ」とはおとなしく素直になってくれとの希いだろう。しかし、そう希いながらも、その音の存在こそが自分そのものであることを作者は知っている。
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黒板の馬を足から消していく〉〈
あおむけになるとみんながのぞきこむ〉『呼びにゆく』(あざみエージェント 2007年)所収。
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