樋口由紀子
おんがくが耳をさがしている 冬松本芳味 (まつもと・よしみ) 1926~1975
四月になったというのにいつまでもたっても肌寒い。先日は暴風と豪雨で、今の日本を象徴しているみたいだ。掲句の「冬」は季節の冬、季感ではないだろう。社会や人間の心の寒さを表しているような気がする。
耳が音楽を探しているのではない。音楽が聞いてくれる、わかってくれる耳を探して鳴っているのだ。身体が冷たくなって、心も次第に冷たくなっていく。しかし、そんなときでも、あるいはそんなときだからこそ出会いを待っている。自分を理解してくれる人や社会を求めて、音楽は鳴り止まない。
〈
これはたたみか/
芒が原か/
父かえせ/
母かえせ〉〈
ローソクを点けろ!!/
にんげんの夕餉/
けものの眠り〉〈
難破船が/
出てゆく丘の/
ひそかな愛撫〉などの多行形式の川柳を残した。どの句も抒情性があり、無念を抱えている。芳味は怒る人であり、強直な男であったようだ。昭和50年に49歳の若さで亡くなっている。
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