相子智恵
代田いま星の呼吸をしてをりぬ 佐藤郁良
句集『星の呼吸』(2012.4/角川書店)より。
夏が立ち、田植前の水をたたえた代田を見かけるようになった。すでに苗が植えられた田もちらほらとある。
代田のトロリとなめらかな泥の質感は、稲という主役の生命はまだなくて静かな状態ではあるものの、すでに息づいているように見える。
掲句は夜の代田である。街灯の少ない、星がよく見える田園の夜だ。泥の水田はてらてらと、月明りに照らされて光っている。目を上げれば初夏の星と月もまた、水気を含んでぼんやりと光っている。天も地も一様に、水の潤いに満ちているのだ。
〈星の呼吸〉に、そんな天と地の瑞々しい呼応が思われてくる。叙情的で美しく、スケールの大きな風景句だ。
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