犬にインタビュー
中嶋憲武
かしつぼ=歌詞のツボ
数あるムーンライダーズのアルバムのなかで、どれが一番ぐっとくるかと尋ねられたとしたら、なんの迷いも無く「ANIMAL INDEX」と答えるだろう。何故ならそのアルバムは大学時代の淡い恋の記憶と共にあるからだ。
秋のアルバム発売と同時期に渋谷公会堂でムーンライダーズのライブがあり、その会場に彼女は現れた。当時ぼくたちは同級生下級生そして他校の者も含め総勢10名ほどで、いろいろなライブを鑑賞しに馳せ参じていた。YMO、ムーンライダーズ、高橋幸宏、坂本龍一、鈴木さえ子、大貫妙子、矢野顕子、ピチカートファイブ、ビートニクス等々YMOを中心としてその周辺のアーティストのライブを好んで観ていた。そんないつもの仲間のなかに忽然と彼女は登場したのだ。学内でお互いに顔を見知ってはいたが、口を効くのは初めてだった。彼女はANIMAL INDEXのなかの「犬にインタビュー」が好きだと言った。ぼくもその曲が好きだったので、しばらく白井良明のギターなどの話をした。なんというかその時からぼくは彼女に恋をしてしまったらしい。お嬢様育ちっぽい彼女の風情に徹底的に参ったというか軍門に降ったというか、まあ惚れてしまったのだ。それからは通学の途次などに偶然一緒になって話をしたり、学食で話をしたりしていたが、デートに誘う勇気は出なかった。貧乏で冴えないぼくとは釣り合いが取れぬものを感じていたし、身分が違うとも感じていたのが、その原因だったか。
翌年の6月、ムーンライダーズのデビュー10周年記念ライブが恵比寿ファクトリー(現在閉館)で開催され、10周年記念ということで今回は総勢15名ほどで観に行った。ライブが始まる前外で待っていると、ムーンライダーズの一行が外になにやら演奏しながら出て来たかと思うと、その楽曲はなんと「ビデオボーイ」のアコースティックヴァージョンだったのだ。楽しい気分を弥が上にも盛り上げようとする小粋な演出だ。その演奏を堪能し終わり、来ているメンバーを確認すると彼女も来ていたが、その時は彼女には彼が出来ていて同伴で来ていた。好きだという気持ちはあったけれど、しょうがないよねとひとり首肯するのみだった。
ライブが始まると大はしゃぎの仲間たちを尻目に、ひとり腕組みをしてムーンライダーズの軌跡を確認するべく、じっとその歌舞音曲の内容に聞き入っていたが、「犬にインタビュー」が演奏される段に至るや、ぼくも狂喜乱舞の態を曝け出してしまった。横目で彼女の方を見ると、彼にべったりと寄り添って嬉しそうに身をくねらせていたりする。楽しいがなんとなく情けないような果敢なくなるような気分。ギュインギュインと良明さんのギターが炸裂して、悲しみをぶっとばすごとく。
ライブの後、余韻の覚めやらぬぼくたちは無軌道にライダーズの歌を高歌放吟したりしながら恵比寿駅へ向かっていたが、途中の芝生のある植え込みに鈴木慶一その人と野宮真貴が座っているのを認めた。誰かが「慶一さあん」とでも言ったものか、鈴木慶一氏は「これ、食べる?」と我々へ向かって、折り詰めの弁当を差し出した。口々にありがとうございまあす、いただきまあすなどと言って、少し離れたところでその弁当を廻し食いに及んだものだった。いやあ、犬にインタビューよかったっすよ。
2011年11月11日、ムーンライダーズは無期限活動休止に入った。もうライブで「犬にインタビュー」を聴くこともないか。
犬にインタビュー
佐伯健三、白井良明/作詞 白井良明/作曲
犬に インタビュー
笑いかける
いまの気持ちは
“首輪をとり えさを捜す 逃げてみせるさ”
You will search me 捜しだされ
You will catch me つかまるのさ
You will seize me しめあげるよ
家を忘れ 路地を駈ける はじめての自由
口うるさく いわれるたび かみつきたくなる
You will hold me 抱きあげて
You will beat me おしおきさ
You will kill me 情けないよ
You will search me 捜しだされ
You will catch me つかまるのさ
You will hold me 抱きあげて
You will beat me おしおきさ
You will kill me 情けないよ
耳をたてて 仲間捜す どこにいるんだ
のどがかわき 熱が出てる 水をおくれよ
犬にインタビュー いいたいことは それだけですか
犬にインタビュー いいたいことは それだけなのか
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