樋口由紀子かまきりはかなわぬまでもふりあげる井上剣花坊 (いのうえ・けんかぼう) 1870~1934
「かなわぬまでも」の中七が効いて、一生懸命なかまきりの姿が目に浮かぶ。かまきりは庶民の比喩だろう。庶民の姿であり、庶民の一人として自分もそうありたいと願っている。掲句は大正10年に作られた。反骨、風刺のメッセージ性が強く、一般読者にもよくわかる川柳である。〈ころされてまだかまきりの斧動く〉当時の社会的背景を考えると剣花坊の意図と熱感が伝わる。
井上剣花坊は川柳中興の祖。「柳多留の昔へ還れ」「狂句百年の負債を返せ」と説き、川柳は「階級のキモノを着ない人間の詩」でなければならないとした。新聞「日本」に「新題柳樽」として川柳を掲載し、「新題柳樽」はやがて新川柳のメッカとなる。〈咳一つ聞こえぬ中を天皇旗〉〈米の値を知らぬやからの桜狩〉。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿