相子智恵盆唄や星の林といふべかり 対中いずみ
句集『巣箱』(2012.7 ふらんす堂)より。
「〈星の林〉というべきだろう」と作者は言う。きっと、林の暗い影の上に、見事なまでの星空が広がっていたのだろう。〈星の林〉と省略して幻想的な世界が広がった。
盆踊りをしているのは、こんもりと茂った林の中の境内だろうか。作者は林の外を通りかかって林の内なる盆踊りの唄を聴いたか、あるいは踊りの輪に加わりながら、林が戴く星々を見上げたのかもしれない。盆踊唄という精霊を慰めるための唄に、星々という遥かなものの取り合わせが美しく、切なく響き合っている。
この句は調べも美しい。〈盆〉〈星〉の「O」の音や、〈唄〉〈いふ〉の「U」、〈星の林といふ〉で連なるハ行の音の数々は、どこか“遠さ”を感じさせる。一句を唱えると、夜空に吸い込まれそうになる。そして読者の耳にも、空耳の〈盆唄〉を聴かせてくれるような気がする。
『巣箱』という句集には、全体的にこうした“遠さ”の美しさがある。むろん、描写する景が遠いというような物理的なことでは決してない。見えているものの奥に余韻として広がる“遥けさ”のことだ。感覚的な物言いで恐縮だが、その“遠さ”はきっと、詩にとって、とても大切なものだと思う。
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