樋口由紀子国境を知らぬ草の実こぼれ合ひ井上信子 (いのうえ・のぶこ) 1869~1958
井上信子は先週紹介した井上剣花坊の妻。掲句は昭和15年に発表された。剣花坊の川柳には人柄と思想が色濃く表われていたが、信子の川柳は女性ならではの視点でアイロニカルなメッセージを乗せている。
信子にも描きたいモチーフははっきりとある。硬骨漢の剣花坊と大きく異なるのはアイデンティティをナショナルなものに頼っていなくて、柔軟でたおやかなところである。人間が決めた国境はしばしば紛争の種になる。しかし、草の実に国境に関係なく、様様なものが結実し、開花する。「こぼれ合ひ」は本当にそうだと思う。
信子は「鶴彬に生活を与えるための会」を提唱し、「川柳文学のために思う存分活動せしめたい」と全国に回状を廻して、寄付金を募り、鶴彬(つる・あきら)を支援した。
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