相子智恵草の絮雲より白くなれば飛ぶ 下坂速穂
句集『眼光』(2012.8 ふらんす堂)より。
一昨日、山中で目にした芒はまだ穂が出たばかりで、子どもの髪のようにしっとりと濡れていた。芒や茅などの草の穂が、真っ白に乾いて絮となり、ふうわりと飛ぶまでには、関東ではまだ時間がある。
〈草の絮〉が飛ぶころには、いまはまだ残る真珠色の積乱雲がすっかり姿を消し、薄絹のような鰯雲に、秋の高い空が透けているのだろう。
〈雲より白く〉といっても、雲にはさまざまな白さがある。そのなかでこの句から想像されるのは、べったりと絵の具で塗られたような密度の濃い白色ではなく、透明感のある軽い白さだ。
その雲の白さを思うとき、〈草の絮〉の「軽さ」があらためて眼前に立ち上ってくる。〈雲より白く〉なった絮はきっと、「雲より軽く」秋の空を飛んでゆくのだろうと、思われてくるのである。半透明の〈草の絮〉が、頭の中で気持ちよく空へと吹き上がってゆく。
●〔編註〕
≫
本誌・第254号(2012年3月4日)クンツァイトまるごとプロデュース号●
0 件のコメント:
コメントを投稿