相子智恵向き合へる蝗の貌の真面目かな 松浦加古
句集『這子』(2012.8 文學の森)より。
「だって、イナゴの佃煮って“佃煮の味”しかしないじゃないっすか。アサリの佃煮は貝の味がちゃんとするのに、イナゴは素材に味がないのがイヤなんですよねー」
某後輩俳人と、なぜか蝗の佃煮の話になった。この長野県の郷土料理の話になると、ふつうは「虫を食べるなんて信じられない」という話になって、蝗の見た目と食習慣のグロテスクさに話が終始するのだが、素材の味がしないからイヤっていうのは、ちょっと新鮮だった。たしかに、蝗の佃煮に虫の味はしない。食感は川エビに似ている。味のしない川エビ……。
さて掲句。一匹の蝗と作者が向き合っているのか、あるいは二匹の蝗同士が向き合っているのか。どちらにせよ、向き合っている蝗に表情は皆無である。
だが、その貌が〈真面目〉だと書かれると、急に蝗の無表情にも愛嬌があるように思えてきて可笑しい。〈真面目かな〉の脱力感がいいのだ。
蝗って、無表情で何考えてるかわからないけど、あいつら意外と真面目らしいよ。佃煮も、うまいらしいよ。佃煮の味しかしないけど……。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿