樋口由紀子馬が嘶き 花嫁が来て 火口が赫い泉敦夫 (いずみ・あつお) 1908~1988
一日の出来事だろうか。それとも一枚の絵だろうか。言葉によって一つの世界があらわれる。〈馬が嘶き〉〈花嫁が来て〉〈火口が赫い〉のそれぞれが独自にクローズアップされ、循環する。視覚的に、聴覚的に、絵画的に、動きのある一つ一つのフレームが鮮やかに目に浮び、抒情のある詩性が発生している。
普遍性のある三つのパートのつながりは情感を立ち上げ、何かを暗示しているようでもあるが、作者は何も述べていない。私たちがその中に存在していることだけが確かなようである。
「写実のもつ具象性と、心象のつくるゆらめきを、どう結ぶかを念じて」と泉敦夫は言う。〈
如月の街 まぼろしの鶴吹かれ〉〈
母の眼にある海鳴り と逢えている〉〈
弔旗売りに来ている村の 音なき昼〉 独特の感性である。『風話』(1972年刊)。
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