2012年10月22日月曜日

●月曜日の一句〔峯尾文世〕 相子智恵



相子智恵







文語的暗がりに柿灯りゐる  峯尾文世

句集『街のさざなみ』(2012.8 ふらんす堂)より。

暗さに対して〈文語的〉という、飛躍のある機智が面白い句だ。

現代の話し言葉である「口語」に対して、平安時代語を基礎とした古い書き言葉である「文語」。いま作者の目の前にある暗がりとは、そんな文語の字面のように、黴臭くも、たおやかな暗がりなのだろう。実際、古い日本家屋の中の、秋の日差しの届かない場所を眺めているのかもしれない。

その暗がりを明るく灯すように置かれた〈柿〉。古来より日本人に愛されてきた柿という果物が〈文語的暗がり〉とよく響いていて、懐かしさを生んでいる。これがたとえば林檎や梨では、この味わいは出せないのではないか。林檎や梨のようにシャキシャキとストレートな歯ざわりは口語を連想させ、逆に柿のなめらかな歯ざわりは文語的な感じがする。

また、芭蕉に〈里古りて柿の木もたぬ家もなし〉という句があるが、昔の家の庭木にはよく柿が植えられていたということも、この句の機智に説得力を与えている。芭蕉の弟子・去来の草庵、嵯峨野の「落柿舎」も思い出された。




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