樋口由紀子
警告が出て押す理容院の椅子
井上一筒 (いのうえ・いーとん) 1939~
「理容院の椅子」にドキリとしたが、その意味はよくわからない。ただ、鮮明に情景が浮かび上がった。なぜ「理容院の椅子」なのか。警告が出たら、他にしなければならない大事なことがある。が、ふとそこがこの句のポイントであり、おもしろさなのかと思った。何かへんと思わすところが、いや何かヘンだと思ってしまう深層心理を突いている。
「理容院の椅子」を押す人があってもいいのである。道徳的倫理的に自分勝手だとひと括りされることへの、それこそ警告なのだ。「理容院の椅子」を押すことは定められた世界への反抗である。上からあてがわれた情報や価値観に統一されることへのアイロニカルな視線がある。「第六回浪速の芭蕉祭」(2012年 鷽の会刊)収録。
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