樋口由紀子
舞えとおっしゃるのは低い山ですか
小池正博 (こいけ・まさひろ) 1954~
なんともけったいな川柳である。山が人に舞えと言うわけがないと思いながら、ひょっとして山はそう言って人をかどわかしている存在なのかもしれない思った。
「舞え」は舞台で舞を披露することではなく、どこか狂気をはらんだ、逸脱した行為をさしているように思う。それも高い山ではなく低い山が、本心を見透かして、どっしりとして落ち着いて、悪魔のようにささやいてくる。それが「おっしゃる」のだから、諧謔がある。
自意識は物を書くうえでの大きな契機である。低い山は自分のうちにあるもう一つの姿かもしれない。もし舞えば世界はどのように変容するのだろうか。「杜人」2012年夏号収録。
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