樋口由紀子
チベットへ行くうつくしく髪を結い
石部明 (いしべ・あきら) 1939~2012
石部明が10月27日に亡くなった。彼は華のある人で、現代の川柳を牽引してきた。彼の川柳は存在感があり、独自の光彩を放っていた。その光はまばゆいばかりのものではなく、漆黒の艶があった。
〈梯子にも轢死体にもなれる春〉〈ランドセル背負う死の国生の国〉〈間違って僧のひとりを食う始末〉〈死んでいる馬の胴体青芒〉 彼の川柳は死を詠んだものが多い。明るく陽気なのに、この世の外にいるような、ぞくっとさせるものがあった。そして、本当に逝ってしまった。
石部はチベットに行ったのだ。そこは私たちが知っているチベットではない。うつくしく結い上げた髪が哀しくて、つらい。セレクション柳人『石部明集』(邑書林刊 2006年)所収。
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