樋口由紀子
かあさんを指で潰してしまったわ
榊陽子 (さかき・ようこ) 1968~
親に向かってなんてことを言う娘であろうか。まるで近寄ってきた小さな虫を潰すように。他人事のように「しまったわ」と。潰してしまったけれど、しかたがないと納得しているように。「わ」が効いている。
でも、実はすごくよくわかる。今の私は潰す方にも潰される方にもどちらの立場にもいる。多くの人がそうだとは言わないが、わかる人は意外といるはずである。ただ、そんなことを考えてはいけないし、まして、言ってはいけないと思っている。掲句はさりげない。それだからこそ重たい。母娘の関係や軋轢は永遠の課題であり、謎である。
〈開店と同時に膝が売れていく〉〈どの指も悲劇になりたがるらしい〉〈耳貸してください鼻お貸しいたします〉 「川柳カード」(創刊号 2012年刊)収録。
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