樋口由紀子
握手せぬほうの手までがうれしがり
福永清造 (ふくなが・せいぞう) 1906~1981
殺伐とした世の中である。このような句に出会うとほっとする。でも、そんな握手は長いことしていないなと思う。選挙中なのでよけいにそう思うのかもしれない。
誰と握手したのだろうか。握手している手の方はもっと嬉しがっている。いやいや、なによりも握手している本人が殊の外喜んでいるのが目に見えてわかる。こういう感じ方ができる人はうらやましい。もっと素直にならなくてはと思わされる一句である。
川柳は物を斜めに見るところがあり、そのような川柳の方がインパクトも強く、印象に残ることが多い。しかし、まっすぐでおおらかなのも川柳眼である。
私は福永清造本人とは一面識もなく、系列的にも接点はない。しかし、彼の名前はよく耳にする。〈かくれんぼ母はみつかるとこにいる〉〈合わす掌の中から幸せが生まれ〉。いい人だったんだ。彼を慕った川柳人が多いのが納得できる。
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