相子智恵
匙回し彼の世を透かす葛湯かな 有馬朗人
句集『流轉』(2012.11 角川書店)より。
匙でかき混ぜて葛湯を作っている。かき混ぜるほどに透明に近づいてゆく葛湯。ただ、どこまでいっても透明にはなりきらない、そのうすぼんやりとした半透明の葛湯の光の奥に〈彼の世を透か〉して見ているというのは、たいそう美しく、幽玄である。
久保田万太郎の〈湯豆腐やいのちのはてのうすあかり〉にも似て、〈葛湯〉というありふれた食べ物の奥に、茫漠とした世界が広がっている。日常の一風景が、一気に日常から離れた詩に転じていくのは、俳句の面白さのひとつだ。
〈彼の世〉の読み方は二通りあるが、ここでは前田普羅の〈奥白根彼の世の雪をかゞやかす〉と同じく「かのよ」と読むほうが音韻がいいので、私はそう読みたいと思う。
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