樋口由紀子
永遠に母と並んでジャムを煮る
樋口由紀子 (ひぐち・ゆきこ) 1953~
年末に母が死んだ。もう母とジャムを煮ることはない。ジャムはすぐ焦げるので鍋から目が離せない。二人でじっと鍋をながめていると、そんなときが永遠に続くのではないかと思っていた。出来上がったジャムは嘘みたいに甘かった。
私は母にとってよい娘ではなかった。短時間でさえ、母と一つのことをするのに息がつまりそうだった。同じものを見ても、同じことをしていても、感じ方や見方が全然違っていた。母もそれに気づいていた。けれども、二人ともどうすることもできなかった。
この世に私の母は居なくなった。それが認められない。勝手なものである。母というのはなんと説明のつかない存在であるのか。『容顔』(詩遊社刊 2001年)所収。
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