樋口由紀子
生姜煮る 女の深部ちりちり煮る
渡部可奈子 (わたなべ・かなこ) 1938~2004
生姜には健胃効果や鎮嘔効果があり、昨今の話題の食物で、生姜の佃煮、生姜のぽかぽか鍋などのレシピも豊富である。私もときどき生姜料理を作る。そのときいつも苦心するのは辛味をどの程度まで抑えるか。辛味があってこその生姜だが、あまりきついと食べにくい。
生姜を煮ると生姜特有の匂いが立ち上がってくる。それはあたかも重量を持って、その存在を顕わしているかのようである。人間の存在そのものと通じるように思う。独特の辛味はいくら煮ても消えることはない。「ちりちり」のオノマトペが効いている。この言葉の選択に可奈子の情念が感じられる。
渡部可奈子はのちに短歌に転向した。『欝金記』(川柳展望新社刊 1979年)所収。
●
0 件のコメント:
コメントを投稿