相子智恵
残像の色失せてなほ紅椿 岡 正実
句集『風に人に』(2013.1 文學の森)より。
鮮烈な紅色の花を、木にびっしりと咲かせる椿。花の色の強さ、花弁と蕊の重量感、てらてらと照る肉厚で健康的な葉っぱ……見るたびに、この花は押出しが強くて貫禄のある花だと思う。ちょっと暑苦しいくらいの存在感で、こちらが気圧されてしまうので、見ていると私はいつも、ちょっと疲れてしまう。
掲句はそんな紅椿を見て、目を閉じたのだろう。まなうらには紅色が失せてなお、その気配が濃厚に残り、紅椿でしかありえない存在感の残像が映り続ける。
〈色失せて〉と、その色をいったん否定しておきながら、〈なほ紅椿〉と重ねることで、かえって色の印象を強めている。目の前を一度暗転しておいてからパッと紅色に焦点を合わせるので、紅椿がより鮮烈に際立つことになるのだ。このたたみかけの表現が、紅椿という花の持つ押しの強さをよく捉えていて巧みだと思った。
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