樋口由紀子
そこを退いてくれませんか 恋人よ
阿住洋子 (あずみ・ようこ)
やっと春である。寒くて固まっていた身体も動きやすくなって、心機一転してスタートをきって、気持ちも軽くなりたい。
けれども前に進めない。あなたが居るからである。あなたのことが気になって、身動きができず、何も手につかない。あなたが退いてくれること以外に解決方法はない。
六・六・五のギクシャクとしてリズムがどうにもならない心と連動しているようで息苦しくなる。本心は真逆で、もっともっと近づいて来てほしいという願望だろう。究極の恋句である。
『阿住洋子句集』は作者の三十代前半までの川柳を集めた句集で、恋愛句が多い。〈愛に今溺れるほどの水があり〉〈問いつめて答はいつも水の中〉〈愛を問うな まっさらな四月の風だ〉〈わたくしは縦に卵は横にして割れる〉〈この世はまぼろし眼鏡をかけたぐらいでは〉 ストレートな物言いが新鮮。『阿住洋子句集』(1987年 フリーク刊)所収。
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