関悦史
花冷えの巨花となりたる都かな 森川麗子
「巨花」と聞けば、中村草田男《白鳥といふ一巨花を水に置く》を思い出さないわけにはいかないし、「都かな」という下五には三橋敏雄の《いつせいに柱の燃ゆる都かな》が潜んでいる。
句集中には他にも有名な句から言葉を拾ってイメージを膨らませたと思しい作が幾つかあるのだが、先行句を「踏まえ」たり、「挨拶」を送ったりといった間テクスト性自体が主な狙いとは見えない。
作者は先行句から割り取った破片を心の底に沈めることで、それを核とした別の珠を形作ることに関心があるのではないか。
草田男句では一応、写生のための修辞であった「巨花」が、ここでは非在の、少なくとも不可視の、SF作品に登場するドーム都市のような、あるいは全視界を圧して咲き誇るジョージア・オキーフが描く花のような、不穏なスケールをもって、花冷えの都市をイメージ化しつつ、のしかかる。
花冷えの都が己からずれ出しながら「巨花」となっていく妖気と、非現実が現実を侵食する姿でのみ、書き表すことのできる肉感的な、あるリアルさ。
それを生成させ得る場としての心身というものを感じさせる句。
句集『白日』(2013.1 青磁社)所収。
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