相子智恵
花も亦月を照らしてをりにけり 今井肖子
句集『花もまた』(2013.2 角川書店)より。
東京のソメイヨシノは、一気に見頃を迎えた。
掲句、美しい夜桜の一句である。月に照らし出されて白く浮かび上がった桜。その明るさは、もちろん月の光を受けた明るさなのだが、まるで花自体が発光しているかのようなその光の強さに、作者は花もまた自ら光り、月を照らし返しているのだと感じている。
地球の花と、38万キロ離れた月とが遠くでお互いを呼び合うように照らしあっている。壮大な宇宙の相聞歌だ。俳句という極小の詩で、こんなにも大きな世界を詠めるのかと思うとうれしくなる。
花は春の美意識の頂点、月は秋の美意識の頂点に立つ季語で、言葉の表面だけを追ってしまうと、一句の中にこの二つの季語が堂々と並んだ季重なりに一瞬驚く。が、そこは実景から感じる連想の確かさと、〈花も亦〉の入り方の強さだろう。花を讃える気持ちが強く表現されていて、春爛漫の景にゆるぎがない。華やかな春の一句だ。
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