樋口由紀子
兄ちゃんが盗んだ僕も手伝った
くんじろう (1950~)
とんでもないことを句にしている。たった十七文字でコトの顛末が想像できる。「手伝った」で情景がはっきりと浮き上がり、人を惹きつける。
これは実話だそうである。十円の小遣いもない夏休みに兄と西瓜を盗み、それを母に見つかり、兄は叩かれながら弟を庇った。弟はずっとこの出来事が心の中にあり、持ち歩いていたのだろう。母、兄、弟のそれぞれの思いが入り交じり、感情移入してしまう。人のかなしみやどうしようもなさを垣間見ることができる。
くんじろうは掲句を膨らまして構成した詩をユーモアと哀感をこめて朗読し、2010年「詩のボクシング」で全国優勝した。(「大東番傘」 2000年)収録。
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