樋口由紀子
美しいひとをこころで侮辱する
林田馬行 (はやしだ・ばこう) 1902~1989
子ども頃好きな女子をいじめたという話を大人になった男性の幾人かから聞いたことがある。そのときに男の人というのは案外素直じゃないんだと思った。が、掲句はそんな単純なものではない。それどころではなく、複雑で屈折している。「侮辱する」ことしかできない(しない)作者の心境が伝わる。
「美しい」の視線、「侮辱する」の心の行為、ドキリとさせられて、怖いほどである。それでいてナイーブでエロス性が漂い、美しい。このような心象も川柳で書けるのだと驚く。
林田馬行は井上刀三などと「灰」を創刊。その後「川柳雑誌」「私」「馬」「川柳ジャーナル」。〈樹の上に在るこころまで今すこし〉〈ピストルの弾に山河の映るとき〉〈天国にゆく雑兵は大の字に〉 『林田馬行集』(私版・短詩型文学全書48 八幡船社 1973年刊)所収。
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