樋口由紀子
暴風と海との恋を見ましたか
鶴彬 (つる・あきら) 1909~1938
鶴彬は〈万歳とあげて行つた手を大陸において来た〉〈手と足をもいだ丸太にしてかへし〉〈屍のゐないニュース映画で勇ましい〉〈胎内の動きを知るころ骨がつき〉などで、反戦川柳作家として、川柳以外の人にもその名はよく知られている。
思想犯として、昭和12年12月に治安維持法違反で特高警察に検挙され、昭和13年9月に収監中に死去。まだ29歳であった。「鶴彬―こころの軌跡」(神山征二郎監督)の映画にもなっている。
掲句は大正14年。鶴彬16歳のときの作。彼は石川県で生まれ育っている。日本海のあの荒波の、暴風を海との恋ととらえている。詩的でロマンチストである。その少年に厳しい現実があり、直面する。彼は生きる姿勢を明確にして、プロレタリア川柳人になっていく。穏やかに生きていくのを社会が阻んだ。〈もう綿くずを吸えない肺でクビになる〉〈エノケンの笑いにつづく暗い明日〉
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〈胎内の動きを知るころ骨がつき〉とありますが、正しくは〈胎内の動き知るころ骨がつき〉です。
返信削除一叩人が「鶴彬全集」に間違って掲載したため、その後の出版物も間違いゾロゾロとなっています。残念なことです。