樋口由紀子
骨は拾うな 煙の方がぼくなんだ
海堀酔月 (かいぼり・すいげつ) 1917~2007
人は死ぬと遺体は焼かれ、残されたものは骨を拾う。斎場には天にのぼりゆく煙。号泣のあと、静まりかえった風景…。クライマックスである。でも、そうではない。
「骨は拾うな」と言われたら、一瞬立ち止まる。何か大きな理由とか信念があるのかなと思ったら、「煙の方がぼくなんだ」とは。肩透かしを食らったようで、肩の力が抜けて、可笑しい。人は消えてなくなるものよりも形になって残るものを信じたがったりする。
〈ちょっと貸した耳が汚れて戻ってくる〉〈ほんとうは泳げるんです豆腐〉〈雲を一つ買って交際費でおとす〉。どの句もチクリと風刺が効いていて、可笑しい。あたりまえと思っている日常のひとこまをさらりと批評眼で見る。さらりと書いているが内容は奥深い。何気なく書かれているが辛辣である。こう言ってのけるところがまさしく川柳の諧謔性である。句集『両忘』(2003年刊・現代川柳点鐘の会)所収。
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