2013年6月10日月曜日

●月曜日の一句〔大沼正明〕相子智恵

 
相子智恵







ラッシュ車内に立ち寝しバオバブ呼んでいる  大沼正明

句集『異執』(2013.4 ふらんす堂)より。

ラッシュアワーの車内で吊革につかまりながら、あるいは手摺に寄りかかりながら〈立ち寝〉をしている人はよく見かけるし、自分も気づいたらそうなっていたことがある。〈立ち寝〉は人間にとって不自然な眠り方であって、そう眠らざるを得ない〈ラッシュ車内〉の余裕のなさは、忙しい現代の息苦しさの象徴のようにも思える。

そんな立ったまま寝ている人が、夢の中でバオバブを呼んでいる。バオバブはアフリカの広大な大地に聳える、地球上で最も大きな木だ。人間が四つ足で歩いていた昔からあったといわれ、枝が根のように見えるその姿から「アップサイドダウンツリー(上下さかさまの木)」とも呼ばれる。そんな不自然な見た目のバオバブと、〈立ち寝〉という人間の寝姿の不自然さ。両者の「立ち姿」は不思議と響きあっている。

それだけではない。ラッシュのギュウギュウ詰めの立ち寝のなかで、サバンナの乾いた大地に聳えるバオバブを思うとき、狭苦しい現実が、一気に広大な空と大地に向かって開けていく爽快感がある。それがこの句をどこか明るくしていると思うのだ。無季の句だが、乾いたサバンナのバオバブに、夏を感じたりもする。

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