相子智恵
炎昼の馬に向いて梳る 澁谷 道
栗林浩著『俳人 澁谷道―その作品と人』(2013.7 書肆アルス)より。
漆黒の馬を想像した。胴も鬣も尾もつやつやと輝くサラブレッドのような、美しくて大きな馬。じりじりとした炎昼に、ただ静かにたたずんでいる。
その馬に向かって、自身の黒髪を梳っている。これは澁谷道の心の中に住む馬なのかもしれない。馬の毛と髪が黒々と、炎昼と相まって緊張感を持って響いてくる。
「山口誓子の〈炎天の遠き帆やわがこころの帆〉に刺激されて、西東三鬼も橋本多佳子も、誓子の膝下で情熱の炎を燃やした。木枯も、道も、そのひとりで、『炎昼』『炎天』の連作をいくつも書いたものだった」(八田木枯「現代俳句」平成22年5月号/同著より引用)重く響きながらど真ん中に打ち込まれるこのような句を読むと、その時代を羨ましく思う。
掲句は昭和41年に刊行された澁谷道の第一句集『嬰』に収められている。
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