相子智恵
羽蟻潰すかたち失ひても潰す 澤田和弥
句集『革命前夜』(2013.7 邑書林)より。
羽は粉々になってきらきらと輝き、小さな蟻の体も糸のような脚もバラバラになる。〈かたち失ひても潰す〉の畳みかけによって、羽蟻に対する容赦のなさよりも、鬱々とした作者の、やり場のない悲しみがあふれてくる。無惨に粉々にされた輝く羽は、本当は流したかった涙のようだ。
二句後に〈蟷螂の鎌振り上げて何も切らず〉という句がある。何も切らずに生きている蟷螂の悲しみと、〈かたち失ひても潰〉して殺してしまった羽蟻の死の悲しみは表裏のように、やるせなさを感じさせる。
本書は作者の18歳から29歳までの俳句を集めた第一句集。多感な青年期の俳句には、やはり心をぎゅんと掴まれるものがあるものだ。
作者が憧れる寺山修司の忌日「修司忌」の句だけを集めた一章もある。〈革命が死語となりゆく修司の忌〉〈男娼の錆びたる毛抜き修司の忌〉など、修司への思いのこもった句も、やはりその時のその人でなければ書けないもので、この一冊の持つ青春の切なさは得難く、泣きたくなってくるのが、いい。
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