相子智恵
どこまでも夏野でありぬ地雷原 坂本茉莉
句集『滑走路』(2013.8 ふらんす堂)より。
〈どこまでも夏野でありぬ〉までは、夏野としてはよくある感慨といえるが、〈地雷原〉の急展開で覆される。あとがきに〈タイに移り住んでからすでに二十六年〉とあり、タイの夏野なのだろう。
夏草が生い茂った広大な野原。青々とした生命力にこそ夏野の本意があろうが、その育ち盛りの夏草の生命力と対極にある「一瞬の死」の恐怖が、どこに埋まっているかわからない地雷によって呼び起こされ、それまでの長閑な気持ちが、下五まで読んで急に冷水を浴びたようになった。
かつて人間が埋めた人間を殺す鉄塊を隠し、夏草はただ静かに風に靡いている。静かに考えさせる句だ。
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相子智恵さま、
返信削除拙句をとりあげていただき、ありがとうございました。「静かに考えさせられる句」というフレーズに感激しました。そういう句を、今後も目指したいです。
坂本茉莉