関悦史
鬱の日の花咲蟹を神としぬ 佐々木とみ子
生きているときのくすんだ色よりも、茹で上がった花咲蟹の棘だらけの鮮やかな赤さを想うべきか。
単に目を引くというよりも、鬱の心に圧迫感に近い存在感をもって迫ってくる蟹の形は、何かの答えをこちらに迫ってくるようでもある。
ただし問いの内容はわからない。硬く鮮やかな造化を通して、こちらが試されているようでもあり、同時に許されているような気配がある。
花咲蟹が獲れるのは納沙布岬周辺海域だという。青森在住の作者にとってもさらに北から来るものだ。その厳しい気候を負った姿形に、鬱の折に感じ入るのは自然の側から不意に到来した存問とも思え、座禅の警策じみたありがたみが感じられる。
句集『氷河の音』(2013.7 津軽書房)所収。
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